マーマレードのことはじめ。

- 手づくりの「私ならこんな風に作る」というのがいくつもあっていいと思うのです。このマーマレードも「私なら」の手がかりのひとつになればと、ガイアのメンバーで作りました -
(1990年発行・通信『ガイアからNo.1』より)

ガイアみなまたが始まった当初から作り続けている商品、それが「甘夏マーマレード」です。甘夏ときび砂糖だけを使って素材の味そのものを生かす作り方の背景には、ありふれていると同時にかけがえのない、ちいさな歴史があります。

だからこそ、これからも、この味を伝えていきたい。

私たちの作る甘夏マーマレードのこと、ちょっとだけでも知ってもらえれば嬉しいです。

<目次>
1.マーマレード、はじまりのはじまり
2.ガイアが作る甘夏マーマレードの特徴
3.マーマレード作りの一日
4.おススメはこんな食べ方!

1.マーマレード、はじまりのはじまり

「透明感のある美しいマーマレード色といえばグラニュー糖になりますが、私はきび砂糖を使っております。(今年のは氷砂糖を使いました)」
「私の知りましたことは全部記しました。もし、ほかによい知恵、新しい発見がありましたらお教えいただきたくお願いいたします―」

やさしい筆圧のペン書きで簡潔丁寧に書かれた、マーマレード作りの工程。「1986.8.30」と記された日付。今でも大切にノートに挟んである、千葉市に住んでおられた尾崎英里(おざきえり)さんからの手紙です。

1986年夏のこと。「きばるの甘夏の消費者と生産者とで水俣の現地で交流をしませんか」、と呼びかけました。そのときの参加者の一人が、尾崎英里さんでした。尾崎さんは、毎年きばるの甘夏を買ってくださっていました。
「なぜって、この甘夏、私の『石の花』には欠かせないんです」とおっしゃる。
「石の花?」
ずっしりとした存在感がある甘夏ケーキは、シンプルなパウンドケーキでありながら、尾崎さんを知るごくわずかな人にしか行き渡ることがなかったそうで・・・初めて手にしたある人がその重さに「砥石のようね」と驚いたのが、名前の由来だとか。
包みを開ければ、広がる香りは甘夏みかん。ご自身にとって唯一無二の「石の花」を作りたくてどれだけのみかんで試してきたか、またきばるの甘夏の皮の厚みと充実した果実の手ごたえに出会ったときのうれしさを懐かしみ語りながら、お土産に携えたその「石の花」を振る舞ってくださいました。

このケーキと一緒に毎年作るのが、甘夏マーマレードだったのです。

普段の料理のときは気にもしないのに、ケーキやマーマレードを作るとなると、準備から片付けまで「ぴしゃっ」としないと気が済まなくなる。それで専用の厨房をと山に小屋をあつらえ、備えつけたステンの天板を磨いてしまうまで眠らない。そんなお話をされながら、最後にこう言い残して帰って行かれました。「こんなにおいしい甘夏があるならば、水俣の患者さんたちがぜひ自分たちの甘夏でマーマレードを作られたらいい」。

それから、尾崎さんとの手紙のやり取りが始まりました。

「甘夏の種を水に浸けて一晩置いてみて」。
「柑橘類のない季節にもその香りや味わいを楽しみ、貴重なビタミンを摂りたいという、柑橘を保存する瓶詰の方法がマーマレードの原型。皮の苦みまで楽しむのが特徴です」。
手紙のやり取りと並行して、私たちは水俣市内の店を回り、ジャムやマーマレードをリサーチしました。国内メーカーが朝食のパンを手軽に食べられるように、様々な種類の商品を売り出していました。パンにのせやすいよう、ジャムやマーマレードもゼリー状に固まっていることが、当時のパン食文化を後押ししていたはずです。
ペクチン剤、ゲル化剤などを使わなければ、固めるために必要なのは砂糖。でも、砂糖を増やすと固まるところを、あえて「甘夏の味を残したい」と砂糖を控えたマーマレードを尾崎さんは作ったのです。まさに逸品でした。
皆で「これはいい」、と。

翌1987年の春、尾崎さんが再び水俣を訪れます。今度は私たちと一緒にマーマレードを作ることを目的に。
公民館の調理室を借りて、マーマレードの試作会が始まりました。生産者の皆さんには前もって話をし、甘夏の皮をそれぞれ家で刻んで一晩水にさらしてきてもらうことにしました。各地区の甘夏生産者が一堂に会し、厨房はさながら祭りのようでした。勢いがありすぎて、いくつかの鍋は甘夏の皮のあんこ煮になっていましたが、でき上がったマーマレードには皆大満足で、それぞれが持ち帰りました。
煮る量と時間、皮と果汁の割合、ペクチンの取り方・・・試作がさらに必要でした。子どもたちを寝かしつけた後で、試作と試食、そして記録の繰り返し。それでもだんだん、新しいことを始めるための下地が整ってきました。懸念材料であったビン詰め後の脱気と煮沸作業を解決するため、高額でしたが滅菌器も発注しました。

1990年、「ガイアみなまた」として活動を始めた私たちに懇意にしてくださったのは、身近にいていつもお世話になっていた地元の方々でした。家の離れも、加工場として貸してくださいました。鋳物の三連ガスコンロを3台、それに滅菌機を持ち込み、ガイアのメンバーでマーマレードを作り始めました。

水俣病の運動の場面を日常としながらもかかわる人間は活気にあふれ、こんなふうに言えば語弊がありますが、自由で華やいでいました。水俣病の根幹を考えていけばいくほど、その問題の根深さと広がりを知れば知るほど、解決を模索する方向はおのずと希望を求め枝葉を広げていったのだと思います。
希望は現実の中にありました。試行錯誤と失敗の中に、ありました。

1990年7月7日、通信『ガイアから』の第一号を発刊。夏のガイアボックスにのせて、マーマレードの販売が始まります。

ガイアが作る甘夏マーマレードの特徴。

●原材料はシンプルに。

原材料の甘夏みかん

たっぷりの甘夏果汁で皮を丁寧に煮込みました(計算すれば1ビンに約1.5個分!)。加えるのは、奄美大島、与論島で生産されるきび砂糖だけ。仕上がったマーマレードの色は、濃い目の琥珀色。果汁の酸味、皮のほろ苦さにきび砂糖のコクが合わさって、深みのあるジューシーな味わいを楽しめます。
旬の果実にはペクチンが充実しています。この時期に種や内袋(じょうのう)からペクチンを濾し出し、とろみづけに使います。そのため、一般に売られているマーマレードよりも緩めの仕上がりになります。

●甘夏への想い。

高橋昇の甘夏園

生産者グループきばるの一員として甘夏栽培に取り組む、高橋昇(たかはしのぼる)。自然や人にできるだけ負担をかけたくないという想いから、酢や石けん水などの代替資材を試しつつ、化学合成農薬に頼らない栽培方法を模索しています。この高橋の甘夏を中心として、ガイアのマーマレードは作られています。
※不作等の理由で原料不足になってしまった場合は、きばるの他の生産者が栽培する甘夏を併用することがあります。

>> 生産者グループきばるについて

マーマレード作りの一日

年が明けてから徐々に甘夏が収穫され、同じくしてマーマレード作りも始まります。朝8時半から日暮れまで、途中のおやつ休憩を楽しみにしつつ、時計を目で追いながらの作業です。

①甘夏を洗う。
前日に行う作業です。ススなどの外皮に付着する汚れを落とします。

②甘夏をお湯に浸ける。

お湯に浸けた甘夏

朝一番の作業。お湯に浸けることで、皮が多少柔らかく、またむきやすくなります。

③皮をむき、スライスする。
カイヨウ病(コルク上の斑点が果皮に付く病害)や黒点病(黒いシミが果皮に付く病害)がひどいものを選別し外しながら、ひたすら皮をむきます。

皮むきの作業

むいた皮はスライサーで細切りに。実は柑橘用で適当なものがなく、活躍しているのはネギ用スライサーです。切った皮は苦みを取るために茹でこぼしをし、水にさらします。

④ジュースを搾る。
ガイアの加工室内でほぼ唯一といっていい大型設備「油圧式圧搾機」で、果汁を搾ります。

⑤ペクチンを濾し出す。
ジュースの搾りかすとして出てくる種と内袋(じょうのう)を使って、ペクチンを取ります。一言で表しきれないコツがあって、マーマレード作りの中でもひときわ大事な作業です。

⑥鍋を火にかける。
皮とたっぷりの果汁が入った鍋を、火にかけます。煮ていくうち、果汁は皮にしみ込み、しんなりとしてきます。きび砂糖を少しずつ加えながら丁寧に混ぜ、頃合いを見計らってペクチン投入。鍋底が焦げないよう、さらに煮詰めます。

マーマレードを煮詰めているようす

味、香りはもちろんのこと、ふつふつと湧いてくる気泡や色合いの変化、かき混ぜたときの重み・・・諸々の要素を五感で感じ取りながら、仕上げていきます。

⑦完成!
甘夏の酸味とペクチン、そして糖分。この三者が互いにうまくバランスを取り合ったとき、マーマレードができ上がります。日が傾く頃に煮上がるマーマレードは、夕焼けのような琥珀色。加工室には作り終えた充足感、そして甘い香りが充満しています。
熱いうちにお玉ですくって、一本ずつ詰めていきます。フタをして滅菌器に入れ、出てきたビンのフタをさらに手締めし、粗熱を取ったらようやく完成です。

最後に残る甘夏の搾りカスや使わなかった皮は、近所の牧場に持って行きます。牧場主さんいわく、「これを食べさせると、牛が風邪を引かないんですよ」とのこと。牛さんはどんな気持ちで甘夏の皮を食べているんでしょうか。その風景を想像すると、ちょっと心が楽しくなります。

おススメはこんな食べ方!

焼きたてのトーストには、バターとたっぷりのマーマレードをのせて。ヨーグルトに入れれば酸味と甘みが良い具合に混ざります。
クリームチーズなどの乳製品と相性が良いので、クラッカーにのせて手軽にパーティーの一品に仕立てるのもおススメ。また鶏肉などの煮込み料理の味付けや、製菓材料にもご利用ください。