坂本さんに会いにゆきました。

坂本さんに会いにゆきました。

こういう形の悪いのでも、ひと皮むけばパールホワイトのきれいな肌が見えてくるのにねぇ。

甘みたっぷり!坂本さんの玉ねぎ 

「まぁ~よう来てくれました!」

朝、坂本さんの玉ねぎ畑に行くと、まず奥様の冨美子さんが、そしてその後ろから勝さんが快く出迎えてくれました。坂本さん夫妻は、水俣の山手にある野川という地域で、温州ミカンと玉ねぎを栽培しています。玉ねぎは十数年前から始められたそうですが、現在は6反の土地で七宝を中心として貴錦、浜育などの品種が育てられています。

水俣といえば、サラダ玉ねぎ。温暖で多雨な気候を生かした極早生玉ねぎの栽培は、1961年から始まりました。サラダ玉ねぎはその名の通り、生でスライスした状態のままサラダとしておいしく食べられることが最大の特長です。坂本さんの育てる玉ねぎも同じく、水分と甘みがたっぷりで生のままおいしく食べることができます。

玉ねぎへのこだわりがすごい

「シャッキリ感があるのは貴錦やばってん、味は何といっても七宝が一番じゃな」。貴錦を売りたいのにそう言われると何とも……という感じですが、勝さんは自分が育てている作物をしっかり見つめて分析します(「ばってん、貴錦もウマかですよ」と後でおっしゃっていました)。

温州ミカンもそうですが、玉ねぎの栽培方法にもこだわりがあります。農薬の使用をできるだけ抑えることはもちろん、50倍希釈の海水を散布したり、光合成細菌という有用微生物を培養して散布したり。玉ねぎを少しでもおいしく健やかに育てられるよう、工夫を凝らしているそうです。
ちなみに光合成細菌の培養ってどうやるんですか?と尋ねたところ「御飯の友(*)みたいなものをエサにして、30度の温度帯で育てます」とのこと。すると冨美子さんがすかさず「いや違うでしょう、御飯の友じゃなかはずよ」と訂正し、勝さんが「まぁ、人間でも食べられるもんっちゅうことたい」と付け加えます。そのやりとりが軽妙で面白く、思わず声を出して笑いました。ごめんなさい。

またこだわりは栽培期間にとどまらず、収穫のタイミングや出荷までの管理の仕方にもひと工夫がありました。

坂本さんの玉ねぎ
玉ねぎ用コンテナは10キロ単位。収穫した玉は根も葉も切らずコンテナに置き、東から倉庫を通り抜ける風を利用して乾燥させる。出荷前に根・葉を切り、選果機にかける。
坂本さんの玉ねぎ
玉ねぎにはとう立ち(収穫後に実から芽が出てくる)と分球(2玉が一つにくっついてしまう)があり、これらは出荷ができない。出荷までに見極めて選果していくことも、作業のうちである。写真は分球をスイスイ掘り出していく坂本さん。作業の手が早い。

イノシシの被害がひどくて……

これだけ手をかけているのだから収穫が待ち遠しいだろうと思っていると、そうは問屋が卸さないといいますか、「シシの害がひどくてな・・・」と坂本さんは顔を曇らせました。聞けば、近年イノシシがミカンのみならず玉ねぎも喰い荒らしていくので困っているとのこと。実際に現場を見せてもらいましたが、ひどいものでした。彼らは葉を避けて、玉と根の部分だけを食べてゆくのです。電柵と網の二重壁で策を講じてはいるものの、イタチごっこの感も否めないそうです。甘夏と向き合っていても思いますが、つくづく、自然とは厳しいものです。

坂本さんの玉ねぎ
喰い荒らされた玉ねぎ。イノシシには玉ねぎを食べる理由があるのだろうけれども、育てている人間としてはたまったものではない。

苦労の結晶を、味わってほしい

それだけに、被害を免れて収穫できたものへの有り難みはひとしおです。坂本さんにとっても私たちにとっても、皆さんがこの玉ねぎをご家庭で楽しんでくださることが一番の喜びですし、それはまた、坂本さんが玉ねぎづくりを続けていくその背中を支えていただくことに直結しています。日本全国、農業を取り巻く悩みは変わりませんが、「孫が大学の休み中に玉ねぎを手伝ってくれてね、お小遣い制で(笑)。何かパソコンを買うお金に充てるんだって言ってたけど」と嬉しそうに話す坂本さん夫妻の姿を見て、その緩いつながりの中に農業の未来を見出すことは決して不可能ではないだろう、とひとり密かに心の中で思いました。

坂本さんの玉ねぎ
黒糖とお茶をいただきながら、坂本さんの話に耳を傾ける。

ひと皮むけば、パールホワイト!

最後に、冨美子さんにおススメの食べ方を聞いてみたところ「何にでも合うとですよ!」と一言。さすが生産者です。その中でも、酢味噌で和えたり、味噌汁に入れたり、サバの味噌煮や魚の煮付けに合わせたりするのが特におススメだそうです。なるほど、味噌と相性が良いと見ました。「ほんとは葉の部分もおいしく食べられるんだけどね~」とおっしゃっていましたが、残念ながらこれは生産者の特権に属する類のものかもしれません。

一般的には横に玉太りしているものがいわゆる「玉ねぎ」として親しまれていますが、坂本さんいわく、レモン型(縦に長い)でも味は変わらないし、むしろ長持ちするのだそうです。ガイアから出荷する玉ねぎは、丸いものも少しレモン型になっているものも混ぜて箱詰めします。どれも坂本さんが丹精込めて育てた、立派な玉ねぎです。楽しんで味わっていただければうれしく思います。

「私はいつも思うんですよ、こういう形の悪いのでも、ひと皮むけばパールホワイトのきれいな肌が見えてくるのにね、って」。分球になった玉ねぎの外皮をむきながら冨美子さんが言われたその言葉を、私たちは聞き逃しませんでした。ひと皮むけば、パールホワイト。その何気ないひと言に込められている意味は、存外に深いです。

*御飯の友:フタバが製造する、いりこを主原料としたふりかけ。熊本県民から愛されるロングセラー商品。

坂本さんの玉ねぎ
お二人の写真を撮ろうとしたところ「帽子が顔に影を差しとるばい」とすかさず調整に入る冨美子さん。

(文=高倉草児)